【40代USCPA目指せ税理士】法人税法勉強メモ21(圧縮記帳)

税理士
1.圧縮記帳制度の概要
国庫補助金収入や保険差益は、「資本等取引以外の取引に係るその事業年度の収益の額」に該当するため、法人税の課税対象となる。しかし、これらの収益について、直ちに課税してしまうと、補助金の交付目的に適合した資産の取得を困難にしてしまうなどの不都合が生じてしまう。
これらの不都合を解消するため、法人税法では、これらの収益に対する課税を繰り延べる「圧縮記帳」という制度が設けられている。
圧縮記帳とは、国などから補助金の交付を受けその国庫補助金収入を収益に計上した場合に、その補助金で取得した機械装置などの固定資産の帳簿価額を、その交付を受けた補助金の額だけ減額して、損金の額に算入することを認める制度である
(1)機械装置の取得に充てるための国庫補助金8,000,000円の交付を受けた
(現金預金)8,000,000円 (国庫補助金収入)8,000,000円➡︎益金の額
(2)(1)で交付を受けた国庫補助金に自己資金2,000,000円を加え、機械装置を10,000,000円で取得し、直ちに事業の用に供した
(機械装置)10,000,000円 (現金預金)10,000,000円
(3)交付を受けた国庫補助金の全額を機械装置の取得に充て、国庫補助金の返還を要しないことが確定したため、国庫補助金収入に相当する圧縮損を計上した。
(機械装置圧縮損)8,000,000円➡︎損金の額 (機械装置)8,000,000円
⇨「国庫補助金収入」と「機械装置圧縮損」が相殺されることにより法人税が一時に課税されないようにする。圧縮記帳は、法人税の課税を一切受けない「課税の免除」という制度ではなく、いずれ課税を受ける「課税の繰延べ」という制度である。
・具体例
機械装置の取得価額 10,000,000円
損金算入圧縮損 8,000,000円
機械装置の耐用年数 5年(定額法:償却率0.200)
圧縮記帳をしない場合➡︎毎期均等で2,000,000円
圧縮記帳をした場合➡︎1年目で圧縮損8,000,000円を計上、これにより帳簿価額が2,000,000円に減額し各期の償却費は400,000円となる
⇨圧縮記帳をすると圧縮損を計上した期の損金が増えるため税金は少なくなる一方、翌期以降、償却費の額が少なくなる=税金が多くなるため、課税が繰り延べられていることになる。
圧縮記帳の経理処理と税務調整
直接控除方式
直接控除方式は、損益計算書に圧縮損を計上し、圧縮記帳の対象とした固定資産の帳簿価額を直接減額する方法である。
(○○圧縮損)xxx (固定資産)xxx
損益計算書
国庫補助金収入 8,000,000
機械装置圧縮損 8,000,000
当期純利益 0
⇨直接控除方式では圧縮損が損益計算書に計上され、損金の額にされるため別表四での税務調整はなし。
積立金方式
積立金方式は、株主資本等変動計算書に圧縮積立金の積立額を計上し、損益計算書には計上しない方法である。
(繰越利益剰余金)xxx (圧縮積立金)xxx
損益計算書
国庫補助金収入 8,000,000
圧縮損 0
当期純利益 8,000,000
⬇︎
⬇︎
⬇︎
別表四
当期純利益 8,000,000
(加算)
(減算)機械装置圧縮積立金認定損 8,000,000
所得金額 0
⇨積立金方式の場合には、圧縮積立金は損益計算書に計上されないことから、当期純利益の計算では費用となっていない。別表四において「圧縮積立金認定損(減算留保)」の調整をして損金の額に算入する。
圧縮記帳後の取得価額
固定資産について圧縮記帳をした場合には、圧縮記帳による損金算入額は、その固定資産の取得価額に算入されない(10,000,000円を8,000,000円圧縮記帳した場合には取得価額は2,000,000円となるというと)。
圧縮記帳後の取得価額
 本来の取得価額 – *損金算入圧縮額
*会計上の圧縮額と圧縮限度額のいずれか少ない金額
圧縮超過額の処理
区分 圧縮超過額の処理 税務調整との関係
直接控除方式の場合 償却費として損金経理をした金額に含める 減価償却超過額として税務調整
積立金方式の場合 償却費として損金経理をした金額に含めない 圧縮積立金積立超過額として税務調整
⇨土地等の非減価償却資産については、減価償却との関係はないため、会計上圧縮額が圧縮限度額を超える部分の金額を別表四で圧縮超過額又は圧縮積立金超過額として加算調整を行う。
2.国庫補助金等の課税の特例
国庫補助金収入に対して、法人税を一時に課税してしまうと、せっかく交付を受けた国庫補助金の一部が、税金として吸い上げられる結果となってしまう。つまり、国庫補助金の交付を受けたとしても十分な設備投資ができないという事態も起こりかねないということである。そこで、国庫補助金収入に対して、法人税が一時に課税されないように、課税の繰延べとしての圧縮記帳制度が設けられている。
圧縮額の損金算入
内国法人(清算中のものは除く)が、次の適用要件を満たす場合において、その固定資産につき、圧縮限度額の範囲内で一定の経理をした時は、その経理をした金額はその事業年度の損金の額に算入することができる。
固定資産の取得等に充てるための国庫補助金等の交付を受けること。
その事業年度においてその国庫補助金等をもってその交付目的に適合した固定資産を取得等したこと。
国庫補助金等の返還不要がその事業年度の終了時までに確定したこと。
圧縮限度額の計算
<計算の型>
(1)圧縮限度額
①交付を受けた国庫補助金等の額(返還不要確定額)
②固定資産の取得又は改良に要した金額
③ ①<②の場合 ∴①
  ①≧②の場合 ∴②-1円
(2)圧縮超過額
会社計上の圧縮額-圧縮限度額
3.保険金等の課税の特例
建物が火災により焼失した場合に、直ちに代わりの建物を取得することができるように、あらかじめ保険契約を結んでおくことがある。実際に火災が生じた場合には、保険金の支払いを受けることになるが、保険差益に対して法人税を一時に課税してしまうと、代わりの建物の取得資金が不足する等、災害からのスムーズな復旧を困難にしてしまうことがある。そこで、保険差益に対して、法人税が一時に課税されないようにするため、課税の繰延べとしての圧縮記帳が認められている
圧縮額の損金算入
内国法人(清算中のものを除く)が、次の適用要件を満たす場合において、その代替資産につき、圧縮限度額の範囲内で一定の経理をした時は、その経理した額は、その事業年度の損金の額に算入することとされている。
所有固定資産が滅失又は損壊したこと。
保険金等の支払いを受けること(滅失等のあった日から3年以内に支払いが確定したものをいう)
その事業年度においてその保険金等をもって代替資産の取得等をしたこと。
<計算の型>
(1)滅失経費の額
(2)差引保険金等の額
  保険金等の額-滅失経費の額
(3)保険差益金の額
  差引保険金等の額-被災資産の被災直前の帳簿価額
(4)圧縮限度額
 保険差益金の額 x 代替資産の取得等に充てた保険金の額* / 差引保険金等の額
*代替資産の取得価額と差引保険金等び額のいずれか少ない金額
(5)圧縮超過額
 会社計上圧縮額-圧縮限度額
滅失経費の範囲
・含まれるもの
固定資産の取り壊し費/焼跡の整理費/消防費等
・含まれないもの
類焼者賠償金/けが人への見舞金/被災者への弔慰金/新聞謝罪広告費等
共通経費の按分
滅失経費の額が、2以上の種類の資産の滅失等に共通して支出される場合には、受取保険金の額の比により按分する。
共通経費の額 x 個々の資産に係る受取保険金 / *取得した受取保険金の額の合計額
*棚卸資産は、圧縮記帳の対象とはならないが、滅失経費を按分する際の分母の金額には、棚卸資産に係る受取保険金の額も含まれることに注意する。
被災資産の被災直前の帳簿価額
・圧縮限度額の計算
被災資産の被災直前の帳簿価額は、税務上の帳簿価額になる。従って、被災資産に繰越償却超過額がある場合には、会社計上の帳簿価額と繰越償却超過額の合計額となる。
・繰越償却限度額の認容
税務上は、被災資産の被災直前の帳簿価額により、損失を計上しなければならないが、会社は、会社計上の帳簿価額に基づいて、損失を計上するため、税務上の損失額に対し、会社計上の損失額が少なく計上される。そこで繰越償却超過額を別表四で減算し、損失額を追加計上しなければならない。
⇨減価償却超過額認容(減算留保)
経理処理と税務調整
区分 圧縮超過額の処理 税務調整との関係
直接控除方式の場合 償却費として損金経理をした金額に含める 減価償却超過額として税務調整
積立金方式の場合 償却費として損金経理をした金額に含めない 圧縮積立金積立超過額として税務調整

 

4.交換の圧縮記帳
制度の趣旨
法人税では交換を譲渡取引と考えて、交換により譲渡資産の交換時の時価と交換直前の帳簿価額との差額である交換差益に対して、法人税が課税される。しかし、同種資産の等価交換を前提とした場合には、金銭の授受を伴わない取引であり、その譲渡益は計算上生じる名目的な利益に過ぎないと言える。そこで交換差益に対して、法人税が一時に課税されないようにするため、課税の繰延として圧縮記帳が認められている。
取り扱い
内国法人が、次の要件を満たす固定資産の交換をした場合において、その取得資産につき、圧縮限度額の範囲内でその帳簿価額を損金経理により減額した時は、その減額した金額は、その事業年度の損金の額に算入することができる。
①互いに1年以上有していた固定資産の交換であること
②譲渡資産と取得資産は、一定の区分において同一種類のものであること
③取得資産は交換のために取得したと認められるものでないこと
④取得資産を譲渡資産の譲渡の直前の用途と同一の用途に供したこと
⑤交換時における取得資産の価額と譲渡資産の価額との差額が、これらのうちいずれか多い価額の20%相当額を超えないこと。
⇨交換の圧縮記帳の経理は直接控除方式のみ。この制度が対象としている交換は、同種資産の等価交換であり、実質的に同一資産を継続して所有しているのと変わらない状況を前提とする要件が付されている。
適用判定
・同一の種類であるかどうかの判定
譲渡資産と取得資産は、次の区分において同一種類のものであることが必要である。
①土地(建物又は構築物の所有を目的とする地上権等を含む)
②建物(建物付属設備及び構築物を含む)
③機械及び装置
④船舶
⑤鉱業権
・同一の用途に供したかどうかの判定
取得資産を譲渡資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供したかどうかは、次の資産の種類に応じて、それぞれ次の区分により判定する。
土地➡︎宅地、田畑、鉱泉地、池沼、山林、牧場又は原野、その他
建物➡︎居住用、店舗又は事務所用、工場用、倉庫用、その他
機械及び装置➡︎旧耐用年数省令別表二の設備の種類
船舶➡︎漁船、運送船、作業船
・等価交換の判定
取得資産の時価と譲渡資産の時価の差額≦いずれか多い時価 x 20%  ∴適用あり
圧縮限度額の計算(等価交換の場合)
<計算の型>
(1)圧縮限度額
 (A)- {(B)+(C)}
 A:取得資産の取得時の時価
 B:譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額
 C:譲渡経費の額
(2)圧縮超過額
 会社計上圧縮額 – 圧縮限度額
圧縮限度額の計算(交換差金等を取得した場合)
<計算の型>
(1)圧縮限度額
 (A)-{(B)+(C)}x (A)/ (A)+(D)

 

   A:取得資産の取得時の時価
 B:譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額
 C:譲渡経費の額
 D:交換差金の額
(2)圧縮超過額
 会社計上圧縮額 – 圧縮限度額
圧縮限度額の計算(交換差金等を交付した場合)
<計算の型>
(1)圧縮限度額
 (A)-{(B)+(C)+(D)}
   A:取得資産の取得時の時価
 B:譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額
 C:譲渡経費の額
 D:交換差金の額
(2)圧縮超過額
 会社計上圧縮額 – 圧縮限度額
譲渡経費の額
仲介手数料、取り外し費、荷役費、運送保険料 等
⇨土地の場合、建物の取壊し直前の帳簿価額、取り壊し費用
譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額
・圧縮限度額の計算
会社計上の帳簿価額+繰越償却超過額
・繰越償却超過額の認容
税務上は、譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額により、譲渡原価を計上しなければならないが、会社は、会社計上の帳簿価額に基づいて、譲渡原価を計上するため、税務上の譲渡原価の額に対し、会社計上の譲渡原価の額が少なく計上されてしまう。そこで、繰越償却超過額を別表四で減算し、譲渡原価の額を追加計上しなければならない。
2以上の種類の資産を同時に交換した場合
交換の圧縮記帳は、同種交換を前提としている。つまり、法人が2以上の種類の固定資産を同時に交換した場合であっても、同一種類の固定資産ごとに、それぞれ交換したものと考えて、等価交換の判定や圧縮限度額の計算、圧縮超過額の計算を行うこととなる。又、それぞれの取得資産の時価と譲渡資産の時価との差額について、実際には金銭の収受はないが、この差額を交換差金として認識する。さらに共通経費については譲渡資産の時価の比により配賦して、圧縮限度額の計算に使用する。
経理処理と税務調整
交換の圧縮記帳における経理は、原則として直接控除方式によることとされている。しかし、企業会計上は、同種資産の等価交換では利益の発生を前提としていないため、交換取得資産の取得価額は、交換譲渡資産の帳簿価額を引き継ぐこととされており、税務上もこの処理を受け入れている(特例)
特例処理による場合には、交換取得資産の取得価額として交換譲渡資産の帳簿価額を付すことになるため、圧縮損として経理する金額はないが、交換取得資産の時価と会社が計上した取得価額との差額を、会社が計上した圧縮損として取り扱うことになる。
会社計上の圧縮損
交換取得資産の時価-会社計上の取得価額

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